売れない・貸せない・利益が出ない 負動産スパイラル
姫野 秀喜 (著)
2021年10月15日更新
「競売って怖そう」、「素人が手を出すものではない」という印象を持っている方は多いと思います。しかし、競売はプロの不動産会社だけでなく、個人や外国人でも全く問題なく参加できる不動産取引です。むしろ普通のサラリーマンにこそ競売不動産投資は向いている、サラリーマンこそ競売不動産で資産を増やすべき、として書かれたのが本書『「競売不動産」で資産を増やす方法』です。現役サラリーマンであり、競売不動産投資家である著者だからこそわかるコツや注意点、サラリーマンが競売不動産投資を行うメリットなどについてまとめました。
競売は不動産売却手続きの一種で、不動産を担保に借りたお金を返済できなくなった場合、担保となっている不動産を裁判所が差し押さえて、一番高い金額で入札した人に売却する仕組みです。
通常の不動産取引は、不動産会社が仲介者となって、売主と買主が取引を行う相対取引となりますが、競売は裁判所が民事執行法に基づいて行われます。裁判所で公正に行われるので、不正が入り込む余地が無いのが特徴です。
一見難しそうな競売物件投資ですが、実は本業で忙しいサラリーマン投資家にこそ最適な投資手法です。
通常の不動産取引は、情報、スピード、人脈がものをいう世界です。儲かる物件はすぐ売れてしまい、普通のサラリーマンが掘り出し物に出会える機会はそうありません。しかし競売は、裁判所のホームページで告知されてから入札までの約4週間、調べたり考えたりする時間があります。忙しいサラリーマンも余裕をもって競売に参加することができます。4週間あれば、素人とプロの圧倒的情報量の差を埋めることも可能です。競売はプロと同じ土俵で戦える不動産投資法だといえます。
競売にはもちろんメリットとデメリットがあり、それぞれを理解しておくことが重要です。
競売は、値段が吊り上がるオークション形式ではなく、一発勝負の競争入札なので、そこまで高い値段は付きません。裁判所から売却基準価格(不動産鑑定士など評価人による評価書に基づいた参考価格)が提示されますが、これは一般市場価格と同等だったり、半分の価格だったりします。競売価格に詳しくなり、相場との価格差を上手く利用することが肝といえます。
競売には、裁判所書記官、執行官、不動産鑑定士などの評価人が公平な観点で作成した報告書として、以下の3点セットが誰でも閲覧できるように公開されます。これを活用することで物件選定が容易に行えるようになります。
不動産投資初心者にとって、競売不動産投資は不動産投資の練習に適しています。
土地建物を購入してから差し押さえられて競売が実行され、新たな価値がつくまで多くの人がかかわります。この過程で不動産業界の仕組みや慣行、物件価格の決まり方、賃貸管理のポイントなど、不動産業の根本に接することができます。実際に買うまで至らなくても競売取引に触れることで得るものは大きいはずです。
逆にデメリットは下記のものがあります。
競売では、裁判所はあくまで手続きを主宰する立場にあり、責任は一切負わず、購入者を保護する法律もありません。特に、購入時にはわからない欠陥があった場合でも、売主は買主に対して瑕疵担保責任は負いません。一般の不動産取引では、宅地建物取引士からの重要説明事項があり購入者が手厚く保護されますが、競売は買手の保護はなく自己責任であることを肝に銘じておきましょう。
裁判所は登記の移転までは行ってくれますが、引渡し(引き受け)は買手が行います。落札後に居座られたら、退去してもらわない限り物件を賃貸に出すことはできません。現在は法律が整備されており、不法に住み続ける占有者には、代金納付日から6ヶ月は引渡し命令による強制執行により退去させることが可能となりましたが、忙しいサラリーマンは厄介事にかかわらないのが一番です。現地調査やヒアリングの結果、厄介そうな物件は購入しないことです。
実際に競売での不動産投資は下記のように進めます。
まず、裁判所が運営する競売情報サイトBIT(http://bit.sikkou.jp/)で情報収集を行います。
BITでは、公開期間中は様々な条件で物件を検索でき、3点セットの閲覧とダウンロードが可能です。また、開札結果は当日午後3時から公開されます。
なお本書では、忙しいサラリーマンはアパートを狙うことを推奨しています。アパート競売なら、明け渡し請求や引渡し命令などで入居者を退去させる必要はなく、空室リスクもカバーできるからです。
厄介事を避けるチェック方法として、3点セットの「物件明細書」にある、「項目2、売却により成立する法定地上権の概略」、「項目3、買受人が負担することとなる他人の権利」、「項目4、物件の占有状況等に関する特記事項」に注目します。物件を入手時の権利と義務が記載されており、こちらへの記載が長い場合は避けた方が無難です。
まずは価値のある物件を絞り込みます。本書著者は「表面利回り30%以上」をリストアップした中から、以下のように絞り込みを行っています。
表面利回り=年間収入(平均家賃x12ヶ月)÷物件価格x100%
※家賃=3点セット「評価書」にある「家賃」の平均
※物件価格は「売却基準価格」とする
次に家賃相場を調べます。3点セットに記載されている家賃と専有面積から現在家賃の平米単価を算出し、地域の家賃相場をインターネットで比較していきます。不動産サイトや不動産賃貸サイトを使い、周辺アパートの募集賃料と平米数を20~30件ピックアップ。その募集賃料の合計を平均平米数合計で割り、狙った地域の平米単価を割り出します。
最終物件に絞り込む場合は、3点セットの平米単価と地域の平米単価を比較して、対象物件の平米単価の方が高い場合は、将来家賃が下がる可能性が高いので、市場相場に落として計算します。平米単価を決めたら満室時の年収を算出し、空室は2割として計算します。経費や修繕費は満室時年収の20%として、税引き後利益に減価償却費を足して、ローン元本を引いて、キャッシュフローを計算して物件を絞り込みます。
上記でアタリをつけた物件の実地調査を行います。住環境(ごみ収集所、住民の服装、道路や雑草など整備状態、泥棒が入りそうかなど)や、物件(屋根のペンキ塗りなおしが必要か、軒下の痛み具合はどうか、外壁塗装は必要かなど)、建物の基礎(床下換気口から土台と柱が接合しているか、水溜りがないか)を調査します。あわせて地域住民の方と挨拶や会話をして各種トラブルの有無、不動産管理会社のことや、ゴミだし、治安、買い物、住民の家賃支払状況のうわさなどをヒアリングします。もちろん最寄り駅から歩いて、周辺施設や泥棒を寄せ付ける雰囲気がないか、清潔化、生活意識や防犯意識など環境も確認します。なお、著者は周辺住民に泥棒だと怪しまれないよう、上下作業着で調査を行うそうです。
またその際、周辺のアパートや駐車場に立っている立て看板から、地域の不動産会社の情報を仕入れます。できれば連絡して訪問し、物件情報を仕入れるだけでなく、落札できた暁には管理を任せられるかも観察しましょう。
調査の結果、修繕やリフォームの必要性などを加味して入札予定金額を修正します。この時点で入札を見送ることもあります。著者は入札金額を決める計算式を以下としています。
実質利回り=(年間満室賃料x75%)÷(入札金額x110%※+リフォーム代、税金など)
※10%載せている理由は力量不足分を補うため
入札額が決まった後は、売却基準価額の20%を裁判所の指定口座に振り込み、手続きの事務作業を行います。必要な手続きについてはBITに詳しく記載があります。
入札手続きについて(BIT)
http://bit.sikkou.jp/guidance/guidance03.html#anc03
落札後、裁判所で書類が受理され、残金の納付が完了したら、入居者との交渉が可能となります。納付後2週間ほどで、裁判所経由で「登記識別情報通知書」が送られるので、今後の売却時に必要になるので保管しておきます。
また、サラリーマン投資家自身が物件を管理することは難しいので、実地調査でアタリをつけた不動産管理会社に管理を委託する相談をしましょう。運用は管理会社ひいては担当者の良し悪しにかかわるので、蜜にコミュニケーションをとって信頼関係を築くことが、満室経営のためには重要です。
まとめ
競売は特殊な不動産取引形態ですが、投資前提で利用するなら必要な知識は一般の不動産投資と何ら変わりはありません。初心者の方であれば、不動産投資関連の知識を習得しながら、まずはBITで公開されている情報をもとに相場感覚を養ったり、シミュレーションをしたりするところから始めるのもよいかもしれません。
【関連リンク】その他の本はこちらからご確認ください。
津井輝 (著)
2020年2月10日発行
人物
氏名
小川 進一
保有資格
・(公認)不動産コンサルティングマスター
・相続対策専門士
・不動産エバリュエーション専門士
・宅地建物取引士
・賃貸不動産経営管理士
・定期借地借家プランナー
プロフィール
不動産一筋35年!成約件数述べ5,000件以上。
自身も都内に複数所有している実践大家。