本に学ぶマンション投資

家賃は今すぐ下げられる!--家賃崩壊時代にトクする知恵

家賃は今すぐ下げられる!--家賃崩壊時代にトクする知恵

日向 咲嗣 (著)

2018年11月22日発行

本書は賃貸マンションやアパートなどの入居者が、不動産オーナーに対して家賃の値下げ交渉をするためのノウハウを解説した本です。

家賃値下げ交渉のノウハウというものは、世間一般にそれほど普及しているものではないと考えられます。しかし、住居の賃貸経営をしているオーナーとして知っておいて損な知識ではなく、ノウハウを知ることで対策を立てることも可能と言えるでしょう。

この記事では、本書に基づいて家賃値下げ交渉のノウハウを解説するとともに、考えられる対策について提案します。

家賃値下げ交渉のノウハウ

近隣の家賃相場と同じ建物の中にある部屋の家賃を調べる

家賃値下げ交渉の準備として最も重要なポイントは、値下げの根拠を作ることです。ずばり似たような条件で検索した物件の家賃相場や、同じ建物の中にある別の部屋の家賃などが値下げ交渉の根拠となります。

不動産オーナーとしても、何の根拠もなくただ「家賃を下げてほしい」という要望に対し、真正面から答える必要はありません。むしろ、根拠が提示されていない場合は、家賃を払えなくなっているのではと疑うべきとも考えられます。

もしも同じ建物・同じフロア・同じ間取りの部屋が現在の家賃よりも低い金額で入居者募集状態となっているのならば、それは最も有効な家賃値下げの根拠となります。

オーナーサイドに立って言うのであれば、入居者が入らないからと安易に家賃を下げるのではなく、募集家賃を従来の部屋に合わせても問題ない程度に、何かしらのバリューアップを考えるのも1つの考えでしょう。

法的に認められた権利を行使する

賃貸不動産に入居者が入るとき、不動産のオーナーと入居者とで賃貸借契約を締結します。賃貸借契約書には家賃が記載されており、不動産オーナーの立場から見ると、入居者側から家賃値下げの交渉など認められるのかと思う人もいるかもしれません。

結論からお伝えすると、入居者からの家賃減額交渉は法的にも認められています。借地借家法第32条1項には借賃増減請求権という権利について記載されています。

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

※引用:e-gov 法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000090

簡単に解説すると、以下3つのケースにおいては、入居者は不動産オーナーに対して家賃の減額交渉ができるということです。

  • 土地や建物に対する固定資産税など税金が増減した場合
  • 土地や建物の価格が上下動するほか、経済事情が変動した場合
  • 近隣にある同じような建物の家賃と比較して、原契約の家賃が不相当である場合

本書で解説されているのは、3つ目の近隣にある同じような建物の家賃と比較して原契約の家賃が不相当と認められる場合の交渉法です。

ポイントは「契約の条件にかかわらず、当事者は将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」というところです。つまり、賃貸借契約の特約で「~年間は家賃の減額はしない」と入っていても、借地借家法に照らし合わせると無効となります。

契約更新のお知らせに対する返信で交渉する

本書で提案されているのは、賃貸借契約に基づく契約更新のタイミングに合わせ、周辺の家賃相場に関する資料を根拠として、文書で家賃の値下げを要求するというものです。

最初の契約時に設定した家賃を下げるというのはあまり一般的ではありません。不動産オーナーとしても気が進むものではなく、管理会社から提案されることもないでしょう。このため、多くの場合は家賃据え置きで2年間などの更新を入居者へ申し入れることになります。

通常は管理会社または不動産オーナーから文書で入居者に対して契約更新の有無を問い合わせますが、この返信として家賃値下げを要望する文書を送ることで交渉を開始するのが本書で紹介されているノウハウです。

考えられる家賃値下げ交渉の対策は?

設備の交換・更新などで入居者の心証を良くしておく

値下げ交渉に対する対策として考えられるものの1つは、日頃から近隣賃貸物件の相場家賃を把握しておくことで、相場家賃と更新後の家賃とを乖離させないことです。

本書で紹介されているノウハウは、経済状況の変化その他の要因によって、近隣の同じような部屋の家賃が安いことを根拠として値下げ交渉をするというものです。そもそも近隣と同程度の相場であれば、値下げ交渉をする根拠がないため交渉に発展することはありません。

しかし、例えば近隣と比較して元々の家賃が高かった場合は、近隣に合わせて値下げするということになってしまいます。値下げを避けるためには、値下げ交渉をしようと思わせないための対策が必要です。

例えば室内設備の交換などは考えられる対策の1つと言えます。エアコンや給湯器などは10年~15年など時間の経過によって故障や型落ちなどが発生します。契約更新などにあわせてこれらの設備を更新することで、入居者の心証を良くするのも1つの方法です。あるいは、温水洗浄便座が入っていないのであれば、無償で導入してみるのも良いでしょう。

いずれもコストがかかる方法ではありますが、1度家賃の値下げに応じれば1年~2年は家賃収入が減ってしまいます。想定される減収額と設備更新・導入のコストを比較すれば、減額に応じるよりはマイナスが少なくすむこともあるでしょう。

法定更新には持ち込まない

本書では、賃貸借契約に自動更新の条項があり、不動産オーナーが家賃の減額交渉に応じなかった場合は、法定更新することで更新料の支払を避けられると解説されています。

法定更新とは入居者側が更新料を支払わず、更新後の契約書にサインせず放置することで、家賃は従前既定のまま契約更新したとみなされるよう持ち込むことです。

そのようなことが可能なのかと思う人もいるかもしれません。しかし、借地借家法の第26条には以下のように定められています。

建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。

※引用:e-gov 法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000090

賃貸借契約の更新に当たっては慣習的に新たな契約書へ署名捺印します。しかし、借地借家法では契約の更新に当たって新たな契約の締結が義務付けられていません。また、「契約を更新しない」と通知しない限りは契約が更新されると定められています。

なお、条文の「ただし、その期間は、定めがないものとする。」という一文は、契約更新に関する手続きをしなかった場合には、自動的に契約が更新されるばかりかその後は更新手数料を要求できないということを意味しています。

契約更新手数料は家賃の1ヶ月分などそれなりの金額が定められているため、オーナー側から見ると、ある程度の損害であると言えるでしょう。

万一入居者から家賃値下げの交渉があった場合は、放置せずに先ほどご紹介した設備の更新や契約更新手数料の値引きなどで応じるのが妥当であると考えられます。

まとめ

コロナの影響などによって家賃の支払いが困難になる人も出てきた昨今では、補助金制度などもありますが、本書で紹介されているようなノウハウが世に広まる可能性もあるでしょう。

可能な限り値下げ交渉を予防するためには、現場の対応を管理会社に一任するのではなく、オーナーとして入居者と日頃からコミュニケーションを取ることも有効です。入居者と人間関係を作っておくことで、値下げ交渉を避けられるとも考えられます。



家賃は今すぐ下げられる!--家賃崩壊時代にトクする知恵

家賃は今すぐ下げられる!--家賃崩壊時代にトクする知恵

日向 咲嗣 (著)

2018年11月22日発行