マル秘・実録 税務署との交渉術
鳥山 昌則 (著)
2022年9月1日更新
不動産投資の失敗とは、本書のタイトルにある通り売りたくても売れず、貸したくても借り手がつかず、借り手がついても利益が出ない物件を運用することで起こります。
この記事では、サラリーマンの失敗例を挙げて原因と対策を考察するとともに、投資用物件を選ぶ上で必ず意識するべき指標について解説します。
本書では高所得のサラリーマンによくある不動産投資の失敗を、ストーリー仕立てにして紹介しています。
高所得のサラリーマンS氏は、ある日投資用区分マンションの営業マンに声をかけられました。営業マンは高所得者の悩みである高い税金に言及し、新築の区分マンション投資が節税につながると説明します。
営業マンは「毎月8万円の家賃収入があり、ローン返済は9万円なので毎月1万円支払うことで区分マンションのオーナーになれますよ。」と勧誘してきました。
マンション投資なのに1万円の赤字を出し続けるのか、とS氏が納得しない様子を感じ取ると、営業マンは「赤字運用していることで税還付を受けられるので、毎月1万円の赤字であっても問題ありません。」と押してきます。
日頃から高い税金や社会保険料などに悩んでいたS氏は、税還付を受けられると聞いて営業マンの話に興味を持ちました。税還付を受けることで赤字を補填できるなら、マンションは実物資産として手元に残るし実質的にプラスになるなと考えたのです。
結果的に、S氏は5件の区分マンションを購入して運用を始めました。不動産会社が展開するサブリースのサービスを利用しているので、入居者がいなくても収入が入ってきます。また、税還付を受けることで毎月の赤字があっても数十万円の利益が出るのです。
S氏は実に良い財テクを始めたものだと満足していました。しかし、S氏がマンションを購入してから2年が経った頃、折からの不景気でS氏が勤める会社は苦しい経営状況に追い込まれたのです。会社は大規模なリストラを決行し、S氏もリストラの対象になります。
S氏は割増退職金を受け取って別の会社へ転職することになり、S氏の給料は約半分になってしまいました。
そして、その翌年S氏は大きな失敗に気づきます。給料が約半分になったことでマンション投資による税還付も約半額になってしまったのです。毎月の赤字額を税還付で補填するという計画が崩れてしまいました。
ローン返済の負担が重くなったため、S氏は仕方なく投資用マンションを売却しようとします。しかし、S氏は5件分合計で1億円弱のローン返済を抱えているにもかかわらず、不動産会社による査定結果は5件合計で最大7,000万円程度との結果でした。
マンションを売却しても約3,000万円のローン返済が残ってしまいます。結果的にS氏はマンションを売ることもできず、今後も数十年間に渡ってローン返済を続けなくてはなりません。
S氏のマンション投資は明確に失敗であったと言えるでしょう。税還付によって毎月の赤字を補填するという計画は、S氏の高所得が将来にわたって続くという前提に立っていたからこそ成り立つものだったのです。
本来は毎月の収支が赤字になるマンション投資をするべきではなく、1件ごとの運用で黒字を出し続けなくてはなりません。
S氏が失敗してしまった原因は主に2つあります。1つ目は、収入が減れば税還付が想定以上に減ることを理解していなかったことです。
所得税の徴収には累進課税制度が採用されており、所得が高いほど税率が高くなります。S氏の計画は、赤字額に税率を乗じた金額が還付されることで投資の赤字を補填するというものでした。しかし、所得が下がって税率も下がったために還付金が減ってしまったのです。
S氏が失敗してしまった2つ目の原因は、新築区分マンションは購入した直後に資産価値が大幅に下がるのを知らなかったことです。
良い不動産投資をするためには、物件単体の収支を検証した時に以下3点のバランスを維持することが必要です。
S氏の投資は結果的に以下の状態になっていました。
新築区分マンションの営業マンは、3つのバランスのうち1つについてしか言及しません。「税務上の収支は赤字なので節税になる」ことしか説明しないのです。会計収支の知識がある人ならば、資産価値と現金収入について触れない時点でおかしいと思うものです。
しかし、多くのサラリーマンは会計収支にそれほど強くないため、3つのバランスにまで考えが及ばず、S氏のような失敗例が生まれてしまいます。
不動産投資は金融機関のローンを利用して進めるケースが大半です。不動産投資ローンの審査にあたって金融機関が算出する不動産の評価額は、実際の取引価格と異なることを理解する必要があります。
不動産は「一物四価」と呼ばれる資産であり、4つの価格を同時に持ち合わせています。4つの価格とは具体的に以下のようなものです。
実勢価格とは不動産の取引市場で使われる売買価格のことです。不動産投資家が最も着目すべきはこの実勢価格であると言えます。実勢価格については、その道数十年の不動産業者であっても正確に言い当てることは困難です。
しかし、可能な限り実勢価格に近い金額を割り出すための方法が2つあります。1つ目は積算評価から推計する方法、2つ目は収益還元法と呼ばれる方法で推計するものです。
積算評価とは、以下の計算式で導かれます。
積算評価 = 路線価(㎡単価) × 土地面積 × 不正径地補正
これは相続税路線価や固定資産税路線価が定まっている場合や、該当する不動産の固定資産税評価額がわかっている場合などに用いられる計算式です。
積算評価を計算したら、不動産が立地するエリアごとの割り戻し係数を用いて補正をかけます。
実勢価格(推計) = 積算評価 ÷ 割り戻し係数
一方で、収益還元法による計算式は以下の通りです。
収益還元法評価額 = 年間家賃収入 ÷ 年間利回り
積算評価を用いた実勢価格の割り出し方は、金融機関が不動産投資ローンなどの審査をする際に用いる方法です。一方で、収益還元法による評価額は投資用不動産の売り出し価格を決める時に用いられます。
なお、前項「高所得のサラリーマンが陥りがちな失敗」で解説した「物件の資産価値」とは積算評価を用いて算出した実勢価格と言い換えることもできます。
また、実際に計算してみると、積算評価を用いて計算した実勢価格は収益還元法による評価額と一致しないことが大半です。
しかし、ローンを使って不動産投資をするという前提に立つならば、収益還元法評価額よりも積算評価が高い物件を購入する方が有利になります。より多くの物件購入資金をローンで調達できるため、余裕を持った資金計画を立てられるからです。
不動産投資における物件選びでは、必ず積算評価を用いた実勢価格を意識することが重要になります。
まとめ
不動産投資によって利益を出す上で重要な指標は、積算評価とも言い換えられる物件の資産価値と、運用によって毎月手元に残る現金額の2つです。
積算評価は多くの不動産投資指南本にも出てくる指標であり、手元に残る現金についてはキャッシュフローとも呼ばれており、これも多くの本に登場する指標の1つです。
積算評価は国税庁のホームページを参照することで割り出せるほか、キャッシュフローについては多くの本で算出方法が解説されています。この2つの指標を把握して物件を選ぶことが不動産投資成功への近道です。
姫野 秀喜 (著)
2018年10月24日発行
人物
氏名
小川 進一
保有資格
・(公認)不動産コンサルティングマスター
・相続対策専門士
・不動産エバリュエーション専門士
・宅地建物取引士
・賃貸不動産経営管理士
・定期借地借家プランナー
プロフィール
不動産一筋35年!成約件数述べ5,000件以上。
自身も都内に複数所有している実践大家。