売れない・貸せない・利益が出ない 負動産スパイラル
姫野 秀喜 (著)
2022年8月1日更新
不動産の賃貸経営を1つの事業として捉え、軌道に乗せるためには満室稼働を目指すことが必要です。不動産の満室稼働を目指す上で重要なポイントは、入居者が入るまでのプロセスや意思決定のポイントなどを知ることです。
この記事では、マーケティングの視点から入居者募集のポイントや家賃設定の考え方などについて解説します。
賃貸経営において入居者を入れる上では、家を探している人がどんな人なのか、意思決定のプロセスと関係する要因を特定することが重要です。マーケティングの視点から、入居付けのポイントについて解説します。
著者は広告代理店に勤めていた時に学んだマーケティングのメソッドを活かして空室対策をしてきました。著者が発見した不動産賃貸業における重要な法則は以下の通りです。
上記の法則を見ると、仲介の営業マンがカギを握っているポイントが複数あります。このため、賃貸物件の空室を埋めるための最重要ポイントは、賃貸仲介の営業マンを本気にさせることです。具体的には、勘定と感情の両面で営業マンを徹底的に盛り上げることが重要になります。
賃貸仲介の営業マンに対して有効な勘定の対策とは、繁忙期に多くの手数料をかけることです。賃貸仲介の営業マンは極めて厳しい営業目標を課されていることが多く、繁忙期には1人当たりの目標額が100万円を超えることもめずらしくありません。
例えば新築の物件であるならば、敷金を家賃1ヶ月分、礼金を家賃2ヶ月分に設定し、礼金2ヶ月分をそのまま全額広告費や業務委託費として営業マンに渡せば、営業マンにとっては非常においしい物件となります。
もう1点、営業マンに対して有効な感情の対策とは、競合となる他社店舗への強いライバル心を刺激することです。
乗降客数が一定以上いる人気の駅であれば、大手賃貸仲介の不動産店舗が複数進出していることはめずらしくありません。複数の店舗に自分の物件を持ち込んで勘定の対策を講じていくと、我先にと契約を決めようとする店舗間の競争が起こります。賃貸仲介の業者間で競争が起これば、比較的短期間で空室を埋めることが可能です。
ここからは、あまり語られることのない「家探しにおける男女間の違い」や問い合わせを増やすための対策など、具体的なところへ突っ込んで解説します。
マーケティングの視点で見ると、入居者のターゲットがどんな人なのかを知ることは非常に重要なポイントです。著者が入居者の内見に自分で対応していた経験から得た知見は、女性と男性とでは部屋に対する考え方が根本的に異なるということです。
特に女性の場合は、部屋を「自分を守る大事なものであり、いわば自分の一部」とも言えるほど重要なものと捉えています。
つまり、女性にとって部屋は安心・安全・快適な暮らしを支える要素です。また、女性の場合は、どういった背景のもと誰によって企画・デザインされたのかなど、部屋のストーリーについても反応が高くなります。
このため、多少家賃が高くても、物件にその価値があれば問題ないと考える女性は多く、部屋自体を気に入れば価格の影響を受けにくいのが女性入居者の特徴です。
一方で、男性の場合は内見せずに部屋を決める人も多く、特に若い男性の場合は部屋を「道具」として捉えているように思われます。男性の場合は、部屋が作られた背景などよりも「近い」「安い」「そこそこの機能を満たしている」などの要素が重要です。
男性は女性と比較して家賃を重要視しており、通勤に便利な駅から近く、広さも許容範囲で、近くにコンビニがあって、家賃が安ければ文句はないといった考え方をする人が多くなります。
マーケティングやセールスの世界では、商品に対する関心が低ければ「価格の安さ」が判断の重要な要素となると言われており、男性の場合はその傾向が強いと言えるでしょう。
なお、DINKSの人や大学生の人などが部屋を探す場合は、最終的な決定権者が女性であることは少なくありません。大学生の場合は特に、母親が部屋選びに付き添うことは多いためです。
男性が気に入った部屋を女性が却下することは多くても、その逆はほとんどありません。あくまで著者の経験則ではありますが、女性に気に入られないことには入居者は決まらないと考えることが重要です。
都市部における賃貸物件のセールス・マーケティングはほぼウェブを介して進みます。入居希望者はウェブの不動産ポータルサイトで物件を検索し、ある程度物件のあたりをつけてから仲介不動産業者に連絡するからです。
ウェブにおける物件広告で最もインパクトの強いコンテンツは「物件の写真」です。写真の訴求力は文字情報よりもはるかに強いと言えます。
印象の良い写真を撮るためには、できる限り晴れた日の明るい太陽光の下で明るい写真を取れるレンズを用い、様々なアングルで撮影することが必要です。
また、広角レンズを用いて少しでも広さを感じさせる写真を撮ると効果的です。なお、写真のパターンが多いに越したことはありません。あまり個性的とは言えないような部屋でも、キッチン・洗面所・バスルームなどの水回りと、バルコニーや玄関など基本的な場所や設備は撮影しておくのが重要です。
最後に満室稼働のカギを握る家賃の考え方について解説します。重要なポイントはトライ&エラーを繰り返しながら本当の相場家賃を探ることです。
例えばアパートやマンションなどを建築してから貸し出すのであれば、少しでも家賃が高く、賃貸需要のある土地を探すことは重要なポイントです。家賃相場の調査と賃貸需要の確認は、新築物件に限らず賃貸経営におけるマーケティングの基本的な要素と言えます。
通常の家賃査定は最寄り駅の客付け業者など、近隣の賃貸相場をよく知るプロに査定してもらうのがセオリーです。家賃査定のポイントとしては以下のものが挙げられます。
しかし、家賃査定の具体的なロジックやプロセスは、投資家の間でもあまり知られていないのが実態です。著者が不動産業者にロジックやプロセスなどを聞いたところ、「決まった家賃が相場家賃」と言われています。
その不動産業者は無責任で適当な回答をしたわけではなく、一定以上の期間にわたって家賃相場をウォッチした上での回答でした。つまり、本当の適正家賃を探る上では、家賃を市場に提示して反応を見ながら決めることが必要です。
ただし「適正家賃のストライクゾーン」は意外と狭く、著者の経験からいうと、相場から5%高いだけで反響が激減します。つまり、広告を掲出した結果あまりにも反響が少ない場合は、家賃設定が高すぎると言えるでしょう。反対にあまりにも早く入居者が決まった場合は、相場よりも安すぎるのではと疑うことも必要です。
まとめ
不動産投資における満室経営を指南する本は多数ありますが、本書はその中でも特に具体的な方法を多数提示している本の1つです。
入居者による内見対応を業者任せにせず自ら対応したり、自主管理における物件の清掃も対応したりなど、賃貸経営の現場を経験した上でのノウハウが多数紹介されています。
マーケターの視点から見た賃貸経営の指南本はそれほど多くないため、入居者を知るという視点から不動産投資の勉強をする上では、とても有効な本であると言えます。本記事でご紹介したノウハウはごく一部なので、ご興味を持たれた方はぜひ購入して一読してみてください。
馬橋 令 (著)
2021年12月14日発行
人物
氏名
小川 進一
保有資格
・(公認)不動産コンサルティングマスター
・相続対策専門士
・不動産エバリュエーション専門士
・宅地建物取引士
・賃貸不動産経営管理士
・定期借地借家プランナー
プロフィール
不動産一筋35年!成約件数述べ5,000件以上。
自身も都内に複数所有している実践大家。