売れない・貸せない・利益が出ない 負動産スパイラル
姫野 秀喜 (著)
2022年2月13日更新
不動産業界の営業はシビアな売上管理をされていているとイメージを持つ人は多いのではないでしょうか。
営業が厳しいというのは、マンション営業などに限った話ではなく、投資用不動産営業も同じです。
不動産投資は、上手に進められれば、長期的な資産づくりとして非常に有効な手段となります。しかし、厳しい営業管理を背景として、「売上さえ上がれば何でもいい」という営業マンがいることも事実です。
不動産投資を成功させるためには、投資家が自ら不動産会社と営業マンを見極める目を持つことも必要になります。見極めるためには、不動産会社や営業マンが何を考えて営業しているのか知ることが重要です。
不動産業界で取締役営業部長まで経験した著者だからこそ伝えられる、不動産投資会社の裏事情やよい不動産投資営業マンの見極め方などについてまとめました。
投資用物件として、新築ワンルームマンションを開発・販売している不動産投資会社は多いです。しかし、投資用の新築ワンルーム物件は価格に要注意です。
新築ワンルーム物件には450万〜600万円ほどの利益が上乗せされており、この利益は、営業マンに支払うインセンティブの原資にもなっています。
営業マンは基本給が低く、インセンティブが給料の大きな割合を占めているパターンも多いです。インセンティブを稼ぐため、物件のよい面だけをアピールする営業マンも少なくありません。
営業トークの中には誇張表現が含まれている可能性もあるので、投資家は営業トークの内容を見極めることが必要になります。
見極めるためには、物件と周辺環境を視察しに行くのがお勧めです。現地を見れば、それだけで判断できる内容も多いので、簡単に判断できます。
特に注意を要するのは、1件目の物件を購入してうまくいっている場合に、2件目や3件目の物件を買う場合です。自分の中に「うまくいっている」という自信がつくとともに、視察の手間を面倒に感じるため、現地確認をせずに2件目・3件目を買う人が多くいます。
どんな状況であっても、投資する前には現地確認を怠らないのが重要です。
営業マンから書類にサインを求められた時は、その書類が何の書類なのか確認することと、書類の内容について確認することとがとても重要です。申込書と言われてサインした書類が、実は売買契約書だったということもあります。
契約後8日以内ならクーリングオフも使えますが、クーリングオフには条件がついているので要注意です。クーリングオフの可能性を考えると、契約書にサインする場所が重要なポイントになります。
契約者の都合で契約者の自宅や勤務先でサインした場合は、クーリングオフの対象外となります。また、上記以外の場所で契約したとしても、契約書の中に「(契約者)本人の要望により指定された場所であった場合」という表現が入っていた場合は、これもクーリングオフの対象外となります。
クーリングオフ対象外の場合は、契約書に記載されているキャンセル条項に基づいてキャンセルできたとしても、手付金は戻ってきません。
金融商品などと比較すると安全度の高い不動産投資ですが、不動産投資にもリスクがあることは事実です。投資家側でリスクについてあらかじめ認識しておけば、説明の有無によって営業マンを判断する基準を作れます。
入居者が退去すると、クリーニングや新たな入居者探しなどのため、1ヶ月〜2ヶ月は空室が発生します。空室期間中は、家賃収入が入って来ないうえにクリーニング費用など支出も多いです。投資前に営業マンから提示される収支のシミュレーションは、空室期間を想定したものになっているか確認しましょう。
サブリースであっても、物件を所有する期間、設定された賃料が入ることを約束されているわけではありません。
入居者をつけられず空室が続くと保証額を下げられる・突然解約されるなどのことがあります。
不動産会社が投資家に対して家賃保証する原資は、入居者から入ってくる家賃です。入居者が入らず空室が続いた場合は、不動産会社は保証する家賃の原資を確保できません。
サブリースは、条件がよい物件でのみ成立するものだと捉えておくことが重要です。
投資用不動産会社の中には、30年〜35年など、長期間の家賃保証を売りにして営業しているところもあります。ここでポイントになるのは、その会社は30年後も存続しているのかということです。
起業から30年後まで存続している会社の割合はどのくらいなのでしょうか。
中小企業庁が発表している2017年版中小企業白書によると、1年目以降5年後の会社生存率は、81.7%となっています。また、2011年版の中小企業白書では、起業後29年経過後の会社生存率は47%です。
5年で約20%、29年で50%以上の会社が倒産もしくは廃業しています。30年後には、物件購入した不動産会社がなくなっている可能性も0とはいえません。
会社の生存率を考慮すると、長期間のサブリースを利用する場合は、サブリース会社が倒産した場合などの対処方法について確認しておくことが重要です。
営業テクニックや不動産投資のリスクとともに、陥りやすい不動産投資の失敗パターンについても確認しておくと、失敗の可能性を減らせます。
フルローンとは、頭金を拠出せずに物件価格を全額融資額で賄うローンのことです。営業マンの中には、フルローンで投資効率を上げることの有効性を説く人も多くいます。
しかし、手元に現金がない状態でフルローンを組むと、万一空室が発生したときに耐えきれない可能性が高いです。空室であるかどうかにかかわらず、返済と金利支払いは毎月続けなくてはなりません。
最低でも物件価格の1割程度は現金を用意した状態で投資することが重要です。
ただし、手元に現金がある一方で、2件目に投資する可能性を考慮して、1件目の物件はフルローンにするということであれば問題ありません。
不動産投資を成功させるためには、自分で情報収集と勉強することが重要です。しかし、個人の投資家が収集できる情報量には限界があります。このため、営業マンから情報収集することも必要です。
では、よい営業マンを見極めるためには、どのようなポイントを見ればよいのでしょうか。
結婚やマイホーム購入など、ライフプラン全体について質問してくる営業マンは信用できます。不動産投資は、投資によってライフプランが崩れないよう気をつけることが重要です。
不動産投資はローンの利用が定石です。しかし、投資用ローンを組んだがために、マイホームの購入時に住宅ローンを利用できなくなってしまうこともあります。マイホーム購入のタイミングなど、ライフプランを一緒に考えてくれる営業マンを選ぶとよいでしょう。
不動産投資は複数のリスクを考慮する必要があります。その中でも、空室リスクは収益に大きく関係するため、あらかじめ対策しておくことが重要です。
収益のシミュレーションをするときに、「空室が発生した場合は毎月〜万円が必要になるので、〜万円ぐらいの自己資金は用意できるようにしてください」など、空室を想定したアドバイスをしてくれる営業マンは信用できます。
まとめ
不動産投資を成功させるためには、投資家自身が投資目的と物件選びの基準を決めることが重要です。自分の中で物件の判断基準が明確になっていれば、悪質な営業マンの手口に引っかかってしまう可能性も下がります。
また、不動産投資のリスクを認識したうえで営業マンに質問することは、営業マンを見極める有効な方法です。質問に対する回答から誠実さを感じられなければ、その営業マンとは取引しない方が無難です。
不動産投資は、成功すれば資産づくりとしてとても有効な手段になります。ぜひ、リスクと見極め方を勉強しながら検討してみてください。
【関連リンク】その他の本はこちらからご確認ください。
株式会社ラソ・トラスト前田浩司 (著)
2019年2月2日発行
人物
氏名
小川 進一
保有資格
・(公認)不動産コンサルティングマスター
・相続対策専門士
・不動産エバリュエーション専門士
・宅地建物取引士
・賃貸不動産経営管理士
・定期借地借家プランナー
プロフィール
不動産一筋35年!成約件数述べ5,000件以上。
自身も都内に複数所有している実践大家。