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不動産投資の税金を最適化「減価償却」節税バイブル

不動産投資の税金を最適化「減価償却」節税バイブル

萱谷 有香 (著)

2021年7月10日発行

不動産投資では、できる限り経費を削減して高い家賃で入居者を入れることも、利益を上げる1つのテクニックです。しかし、どんな物件を購入しても、必ず固定資産税と減価償却費という2つの費用が発生します。

固定資産税は行政が定める評価額に基づいて決まるため、物件のオーナーがコントロールできる費用ではありません。しかし、減価償却費については、知識の有無によって実際の手残り額が変わってきます。減価償却費は固定資産税以外の税金に関係があるからです。

この記事では、減価償却費の仕組みやよくある疑問などについて解説します。

減価償却の基本

最初にお伝えする前提として、この記事で解説するのは、個人ではなく法人による不動産投資を進める場合の方法論です。法人名義で不動産投資をした場合に、減価償却費はどのように利用できるか解説します。

減価償却とは

減価償却とは、不動産のうち建物の部分について、発生する経年劣化に応じて購入価格の一部を毎年経費計上していく仕組みのことです。

なお、計上した減価償却費は法人の本業における収支と損益通算できます。減価償却費という実際には支出していない経費を計上することで、本業の収益を圧縮可能です。収益を圧縮すると法人税が減るため、減価償却は主に節税の手段として用いられています。

減価償却は収益の繰延に過ぎない点に要注意

減価償却の仕組みを利用する上で注意を要する点は、減価償却によって収益を圧縮することは、収益の繰延に過ぎないという点です。

減価償却は物件を購入してから永続的に計上できるわけではなく、計上可能な期間に限りがあります。節税目的で不動産運用を進める場合は、減価償却費を計上できなくなったら物件売却に移るのが一般的です。物件を売却して利益を得た場合は、売却益に対して法人税が課税されます。

物件の売却益とは「売却額 – 購入額」で計算すると考えがちですが、税務上の計算方法は異なります。税務上の売却益を算出する計算式は以下の通りです。

売却額 – 購入額 – 計上済みの減価償却費 = 税務上の売却益

簡単に説明すると、減価償却によって減らした分の法人税は、物件を売却した時にまとめて支払う必要があるということです。

法人の場合は減価償却の仕組みで戦略的な節税が可能

結局後で税金を払うのであれば意味がないと思う人もいるかもしれません。しかし、法人の場合は、本業で利益が多くなった年にまとめて減価償却費を計上することで、意図的に法人税を抑制できます。

法人の場合は、税法に則って計算する限度額の範囲内で、減価償却費の計上額を自由に決められるためです。計上しなかった減価償却費は2度と使えなくなると思っている人も多いかもしれません。

しかし、例えば物件を購入した1年目の決算で減価償却費を計上しなかった場合は、1年目の金額をそのままその後の年度にスライドできます。法人の場合は計上年度を柔軟に変更することで、戦略的な節税が可能です。

ただし、減価償却費の計上年度は永続的に先送りできるわけではありません。場当たり的に計上年度を決めるのではなく、5年~10年など長期スパンで計画を立てることが重要です。

不動産投資を第2の収益源にしたい場合

不動産投資における減価償却の仕組みを利用することで、法人の場合は不動産運用益を第2の収益源にできます。この場合は短期間で不動産投資規模を拡大していくことが必要です。投資規模の拡大において減価償却費を活用する注意点について解説します。

デットクロスの時期を試算しておく

短期間で投資規模を拡大するためには物件を買い増していくための資金が必要です。減価償却費を計上することで手残りの現金を増やしていけば、次の物件を購入する資金に充当できます。

また、物件の購入においてローンを利用することも念頭に置くと、物件運用中は以下の状態になるのが理想的です。

減価償却費 > ローンの元本返済
法人の税務上利益が減少した結果、手元に残る現金が増加

ローンを利用すると金利は経費計上できる一方で、返済元本は経費計上できません。このため、毎月の減価償却費が元本返済額を上回ることが重要です。

しかし、減価償却費を計上できる期間には限りがあるため、いずれ元本返済額が減価償却費を上回る時期が到来します。

こうなると税務上の利益が増加して法人税が重くなります。税負担が重くなると手元に残る現金が減ってしまうため要注意です。この逆転状況のことをデットクロスと呼びます。

デットクロスの時期はあらかじめ試算できるため、物件を購入する時点でいつデットクロスが来るのか把握しておくことが重要です。

例えば、デットクロスが到来する前に、より利益の大きな物件へ買い替えることで本業以外の収入源を確保することも可能になります。

減価償却の気になる疑問

減価償却の仕組みを利用した節税について、税務署から指摘が入る脱法スキームなのではないか、ほかに節税方法はないのかなど気になる人もいるのではないでしょうか。ここからは、法人の減価償却に関する疑問について解説します。

減価償却費の調整計上について税務署から指摘されないのか

減価償却費は税法に定められた限度額の範囲内で任意に計上可能と解説しました。しかし、経費計上についてコントロールすることで、税務署から指摘が入るのではと不安に感じる人もいるのではないでしょうか。

結論からお伝えすると、損金計上の時期や金額をコントロールすることで税務署から指摘が入ることはありません。減価償却費の損金計上については、法律の範囲内で、税務申告する法人の判断にゆだねられているためです。

減価償却費の計上額に誤りがなければ、本業の利益を不動産投資の減価償却費で相殺したとしても、追徴課税などは発生しません。

築古物件のリノベーション費用は物件購入価格に算入できるのか

減価償却費を最大化するためには、築22年以上の木造住居が最も適しています。このため、減価償却を利用する目的で築古の木造アパートを購入するのは、めずらしいことではありません。

築古の木造アパートは入居者からの人気が薄いため、リフォームまたはリノベーションを入れることも多くなります。この場合は、不動産賃貸業という事業の用に供するため支出した費用として、リフォーム等の費用は物件の購入価格に含めて減価償却費を計算可能です。

しかし、リフォーム等の費用が物件に関する再取得額の50%を超える場合には、全額を減価償却することができません。節税目的の物件を修繕する場合には、減価償却費として計上できる限度額も確認しながら検討することが必要です。

不動産を賃貸運用しないと減価償却できないのか

法人が不動産を購入した場合は、社宅として運用するのも節税対策としては有効になります。事業の用に供する目的であれば、物件購入にかかる費用や維持管理にかかる費用を経費計上できるためです。また、実際にかかった費用だけではなく減価償却費も計上できます。

ただし、購入した物件に社長または従業員が無償で住むと、居住者の所得税が増加する点に要注意です。居住費は税務上の経済的利益と判断されるため、賃料相当額を給与に上乗せして所得税等が算出されます。

社宅に居住する本人の税負担を重くしないためには、物件の所有者である法人に対して居住者が毎月家賃を支払うことが必要になります。

まとめ

不動産投資は法人の税務対策としてとても有効な資産運用です。物件を購入することで発生する減価償却費が大きなポイントとなります。法人は減価償却費を計上することで本業の収益を圧縮可能です。収益を減らすことによって法人税の繰延につながります。

なお、減価償却費の計上は合法的な手段であり、法令の範囲内であれば税務署から指摘が入ることはありません。また、賃貸運用する以外に物件を社宅として運用することによっても、購入物件の減価償却費を計上できます。


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不動産投資の税金を最適化「減価償却」節税バイブル

不動産投資の税金を最適化「減価償却」節税バイブル

萱谷 有香 (著)

2021年7月10日発行