売れない・貸せない・利益が出ない 負動産スパイラル
姫野 秀喜 (著)
2022年9月5日更新
不動産投資などやめておけという人は世間に多いものです。多くの人がそのように考える根拠は、不動産投資は玄人に有利な世界であり素人はカモにされてしまうというものです。
本書は小説という形で、約20年大手電機メーカーに勤めた独身サラリーマンの須藤が不動産会社のカモにされてしまう様子について、実話をベースとして事細かに描写されています。
本書で学べること
ある日、会社で仕事をしている須藤のもとに1本の電話がかかってきます。電話をかけてきたのは、ある不動産会社の橘高(きったか)という若い女性社員です。
橘高は須藤に「何もしなくても毎月数万円の収入になる仕組みがあるんですけど、興味ないですか?須藤さんのような大企業の社員さんにしか使えないものなんですけど。」と問いかけます。
粉飾決算が発覚して世間における会社の信用が揺らいでいたため、退職を考えたこともあった須藤は時間を取って橘高に会うことにしました。約束の場所に表れたのは、橘高ともう1人、不動産会社の営業課長である九門(くもん)です。九門は相撲取りのような風貌の大男でした。
ファミレスの4人掛けボックス席に通されたものの、なぜか橘高は九門の隣ではなく須藤の隣に座ります。
九門は須藤にローンを使った新築マンション投資を提案しました。九門は「家賃収入からローンを返済する必要があるものの、ローンを完済すればマンションは須藤様のものになります。ほとんど負担なくマンションを買えるんですよ。」と、須藤にマンション投資を勧めます。
また、「銀行は誰にでもローンを貸すわけではないので、この方法は大企業に勤める須藤様のような方にしかできません。さらには、金利は確定申告で経費として計上できるので、家賃収入を得ながら節税も可能です。」と畳みかけます。
一通り説明を聞いた須藤が「少し考えさせてください。」と席を立とうとすると、九門は「このマンションはとても人気で、あと1部屋しか残っていないんです。私としては、気持ちよく話を聞いてくださった須藤様にぜひ買っていただきたいと思っています。」と引き止めました。
なぜか須藤の隣に座っている橘高も「今日契約してくれるまでここを動きませんよ。」とプレッシャーをかけてきます。
須藤は仕方なく座り直すと「マンション投資をすると言っても、入居者が入らなければ儲けにならないんでしょう?」と質問しました。
すると、九門は「さすが、鋭いですね!おっしゃる通り入居者が入らなければマンション投資は成立しません。しかし、私たちが販売しているのは東京都内の新築マンションです。最近では人口が東京に一極集中していると言われて久しい上に、多くの人が家を借りるなら新築物件に住みたいと思っているんですよ。」と返します。
須藤が納得しきっていない様子を感じ取った九門は、さらに「どうしても空室が心配ということでしたら、入居者の有無にかかわらず家賃を保証するサービスもつけられます。」と付け足しました。
最後に橘高が「2年以内であれば、ご購入いただいた価格で弊社が買い戻すこともできるんですよ。」とダメ押ししてきたところで、ついに須藤は新築投資用マンションの売買契約書にサインしました。須藤が購入したのは都内の投資用高級ワンルームマンションで、購入価格は3,000万円です。
須藤が契約書にサインして以降は、少し不自然に感じられるほど手際よく手続きが進みます。契約書にサインした翌日にはローン審査の申込をするよう促され、わずか1週間と数日の間に須藤は正式に投資用マンションのオーナーとなりました。
投資用マンションの購入には、契約後8日以内であればクーリングオフを適用可能です。しかし、橘高を始めとして銀行職員など様々な人の手をかけていることを気にした須藤は、3,000万円のローンを組むことに少し恐怖を覚えながらも、クーリングオフの権利を行使することはやめようと考えました。
マンションを購入してから3ヶ月が経った頃、須藤のもとに再び橘高から電話がかかってきます。「ご無沙汰しております。その後、特にお変わりないでしょうか?実は折り入ってご相談があるのですが、少々お時間を取っていただくことはできませんか?」と言われた須藤は、橘高が若い女性であったこともあり再び会うことにします。
しかし、橘高が持ち掛けてきたのは相談などではなく、2戸目のマンション購入を勧める勧誘でした。橘高は将来の年金不安を煽るとともに、須藤はさらにローンを使えるからと、築5年の中古マンションを勧めます。
当初、須藤は追加でローンを組むことに抵抗を感じていました。しかし、入居者が入っているオーナーチェンジの物件であり、価格も前回購入したものより安いことなどから、結局追加での購入を決意します。
2戸目の物件は2,000万円で、その後須藤は家賃収入から諸経費を支払うことで、毎月合計で3万円を給料から補填することになりました。毎月の持ち出しは発生するものの、将来的には2戸のマンションを自由に使えるということで須藤は納得したのです。
家賃保証サービスがついている物件と、入居者居住中の物件とを購入したことで、須藤の不動産投資は順調なように思えました。しかし、物件を購入してから2年後に入居者が退去したことで、須藤にピンチが訪れます。
最初に3,000万円で購入した物件で、2年間入っていた入居者が退去するという連絡が不動産会社から入ったのです。連絡を受けた当初、須藤は退去があってもサブリース契約を結んでいるからと安心していました。
しかし、不動産会社は2人目の入居者を入れるにあたって募集家賃を下げたため、須藤に保証する家賃も下げさせてほしいと言ってきたのです。
保証賃料を減額されると毎月の持ち出しが増えてしまい、生活が少し苦しくなることから須藤はサブリース契約の解約を不動産会社に申し出ます。しかし、不動産会社は「物件オーナー側からは、正当な理由がない限りサブリース契約の解約はできない。」と解約を拒否しました。
須藤が「正当な理由とは例えばどのようなものですか?」と尋ねると、担当者は「例えばやむを得ない事情によって、運用しているマンションにオーナー自ら住まざるを得なくなったなどのことです。」と答えます。
サブリースのスキームでは、入居者から入ってくる家賃のうち20%を手数料として不動産会社が徴収します。須藤は、サブリースを解約すれば不動産会社の手数料分も自分の収入となるため、入居者が入れば赤字を拡大しなくても済むと考えていました。
また、須藤は実家で母親と二人暮らしをしていたため、投資用マンションに住まなければいけない理由は特にありません。オーナーの収支改善はサブリース解約の理由として認められないことを理解した須藤は、結局サブリースを継続することにします。結果的に、当初3万円だった毎月の持ち出し額は5万円に拡大することとなりました。
しかし、立て続けに2戸目のマンションでも空室が発生します。こちらはサブリースを利用していなかったため、入居者が決まるまでの数ヶ月間に渡り、須藤は給料からのローン返済を迫られました。
返済の負担は非常に大きかったため、入居者が決まるまでの間、須藤はとても大きなプレッシャーにさらされることになります。
まとめ
最終的に、須藤はマンションの購入元と別の不動産会社に相談することで、まだ残っている与信枠を使って木造アパートに投資し、収支を建て直すことを決意します。
本書はノベライズであり非現実的な描写も多数含まれていますが、実話に基づくストーリーということで、大企業に長年勤めた須藤がマンション投資を勧められる描写はとてもリアルです。
また、新築マンションに投資した結果として毎月赤字が発生しており、さらには空室の発生によって窮地に追い込まれるという事例は現実でも多数起こっています。このような相談は弊社にも多数寄せられているのが実態です。
弊社では不動産投資のセカンドオピニオンサービスも展開していますので、もし似たような状況で困っているのであれば、ぜひご相談ください。
【関連リンク】その他の本はこちらからご確認ください。
杉田 卓哉 (著)
2017年11月2日発行
人物
氏名
小川 進一
保有資格
・(公認)不動産コンサルティングマスター
・相続対策専門士
・不動産エバリュエーション専門士
・宅地建物取引士
・賃貸不動産経営管理士
・定期借地借家プランナー
プロフィール
不動産一筋35年!成約件数述べ5,000件以上。
自身も都内に複数所有している実践大家。